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Publisher's Summary

私は、ある恐怖に取り憑かれている――。

以前から一度ならず襲われてはいたが、京都の木屋町に宿泊し、
不秩序な生活を送るうちにそれは勢いを増した。
曰く、私の此の病気は、鉄道病と呼ばれる神経病の一種だろうと云う。
鉄道病と云っても、船車の酔とか眩暈とは全く異なった苦悩と恐怖とを感ずるものだ。
汽車に乗り込めば、私の血流は脳天へ向けて奔騰し、冷汗を流し、手足は顫える。
早急に手あてを施さなければ、脳充血をおこして死んでしまうだろう……。

私の此の病気は、汽車へ乗って居るときには限らない。
電車、自動車、劇場――そういった、刺戟の強い運動、色彩、雑踏によっても、突発的に引きおこされる。
私は当分それらを離れ、自然に治癒する迄、東京へは帰れないとあきらめた。

しかし、徴兵検査は受けなければならない。
私は、近場の漁村に籍を移し、検査を受けることにした。
そこならば汽車に乗らずとも電車で事足りるので、東京に戻るよりは増しだと私は喜んだ。

電車ならば大丈夫……。
そう信じて、無理やりに安心しようと努めたが、神経は堪えられなかった。
何度も改札をくぐろうとしたが、その度に足は竦み、動悸は激しくなる……。

あゝ――。
私は今からあのとてつもない恐怖に、死に物狂いで立ち向かわなければならないのだ……。
©2021 PanRolling

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